チェスのオープニングを指すポイントとは?世界チャンピオンの試合を見て学ぼう

本記事では、チェスのオープニング(序盤戦)をプレイするポイントを解説していきます。
オープニングを指すポイントを学ぶことで、序盤から不利になる可能性が減ります。
不利な状態で中盤戦や終盤戦をプレイしないためにも、オープニングで重要なポイントをしっかりと理解しましょう。
オープニングの基本:チェスの序盤で成功するためのポイント
チェスの序盤戦、つまりオープニングでは重要なポイントが4つあります。
- 中央(センター)を支配する
- 駒を展開する
- 1つの駒を何度も動かさない
- キングの安全を確保する
以下で詳しく解説します。
中央(センター)を支配する
チェスの序盤戦は、チェス盤の「中央(センター)」を支配することが重要です。
・赤いマス=「センター」
・黄色マス=「サブセンター」
支配する、という言葉だと少しイメージしづらいかもしれません。
「中央を支配する」を言い換えると、盤面の中央に自分の駒を配置し、中央を起点にして広範囲のマスに移動できる状態にすることです。
例えば、eポーンとdポーンを中央のマスに配置してみます。
このように、eポーンとdポーンが中央に配置すると、c5からf5までのマスをポーンの攻撃範囲にできます。
そして、黒の視点に立つと、白のポーンの攻撃範囲には、ポーンより価値の高い駒(ビショップ・ナイト・ルーク・クイーン)を基本的に配置できません。
そのため、ポーンを中央に突くと、中央の支配に大きく役立ちます。

また、中央に配置された駒は単純に動けるマスが多い点も重要です。
中央に配置されたクイーン。
端に配置されたクイーン。
赤いマスの数を見れば明らかですが、中央に配置されたクイーンのほうが動けるマスが多いですよね。
そしてクイーンに限らず、「中央に配置された駒」と「端に配置された駒」を比べると、中央に配置された駒のほうが動けるマスが多いです。
このことから、チェスでは序盤に駒を中央に配置することで、中盤戦や終盤戦で有利に戦える可能性が高いのです。
- チェスの序盤戦は中央を支配するのが重要。
- 中央を支配するには、駒を中央に寄せる必要がある。
- 中央に駒を配置できると、中盤戦や終盤戦で駒を活躍させやすい。
駒を展開する
チェスの序盤では、駒を展開すること(活躍できるマスに動かすこと)が重要です。
そもそもチェスで勝利する条件は、「相手をチェックメイトすること」です。
(敵のキングを攻撃したときに、相手のプレイヤーがキングを生き残らせる手段が1つもない状態をチェックメイトといいます。)
そして、チェックメイトするためには、自分の駒を相手の駒よりも効果的に活用することが重要なのです。
しかし、チェスの試合を始めた直後の駒の配置は、それぞれの駒が全く活躍できない状態です。
チェスの駒の初期配置
この局面では「ポーン」と「ナイト」しか動かすことができません。



クイーンやビショップ、ルークを効果的なマスに動かすためには、最初にポーンやナイトを動かす必要があるのです。
例えば、ポーンをe4に指したり、d4に指したりするとビショップを動かせるようになります。
このように、駒を動かすことで初めて動かせるようになる駒があります。



ここで一度振り返ります。
1つ前のポイントで、「チェス盤の中央を支配することが重要」だとお伝えしましたよね。
そして、今は「駒を展開することが重要」だとお伝えしました。
つまり、「チェス盤の中央を支配できるように駒を展開すること」が重要だといえます。
例えば、以下の局面をご覧ください。
このように、序盤から白のプレイヤーが駒を盤面の端に展開すると、中央を全く支配することができません。
それどころか駒の動けるマスが少なく、序盤からあっという間に不利になってしまうでしょう。
一方で、以下のように駒を中央に展開すると、どうなるでしょうか。
このように、多くのマスに駒を動かすことができ、中盤戦や終盤戦で駒を活かし、敵のキングをチェックメイトに手筋も生まれます。
- 序盤では、駒を展開(活躍できるマスに動かすこと)が重要。
- 駒を展開するときは、盤面の端よりも中央が好ましい。
1つの駒を何度も動かさない
続いての序盤で成功するためのポイントは、1つの駒を何度も動かさないことです。
1つの駒を何度も動かしてしまうと、その1つの駒以外を展開できません。
チェスの序盤においては、1つの駒を何度も動かさずに、複数の駒を展開することを意識してください。
例えば、チェスの初心者にありがちなミスとして、「クイーンを序盤に何度も動かす」という点があります。
以下の局面をご覧ください。
このようにクイーンは最も強い駒ですが、この駒1つだけでチェックメイトを狙うことはできません。
クイーンを最大限活躍させるためには、他の駒のサポートが必ず必要です。
そのため、序盤ではクイーン以外の駒もきちんと展開してあげる必要があります。
また、「クイーンとルークは序盤に展開するな」というオープニングの原則が存在します。
その理由は明確です。
例えば、以下の局面のようにクイーンを序盤から展開してみます。
こうなると、黒のプレイヤーが「白のクイーンを攻撃しながら駒を展開する」といった戦術を取れます。
クイーンは最も強い駒であり、クイーンより弱い駒に取られてしまうわけにはいきません。
そのため、序盤にクイーンを動かしても、敵の駒から集中砲火されてしまい、クイーンを取られないマスに動かすことになるのです。
クイーンを逃がすために動かしている間に、「1つの駒を何度も動かさない」という重要なポイントを破ってしまうことになります。



「クイーンとルークは序盤に展開するな」という原則は、言い換えると「価値の高い駒を序盤に動かすな」という意味です。
- 最も強い駒「クイーン」であっても、1つだけでは敵陣を攻め落とせない。
- 1つの駒を何度も動かさずに、複数の駒を展開することが重要。
- クイーンとルークは序盤で展開するべきではない。
*「クイーンやルークを序盤にぜーーーったいに動かしてはダメ!」というわけではありません。ただ、初心者のうちは極力マイナーピース(ナイトやビショップ)の展開を優先することをオススメします。チェスに慣れてくると、この場合は「クイーンを動かしても大丈夫!」というのが分かってくるでしょう。
キングの安全を確保する
最後のポイントを解説します。
- 中央(センター)を支配する
- 駒を展開する
- 1つの駒を何度も動かさない
- キングの安全を確保する
これは中盤戦や終盤戦の前に、キングの安全を確保したほうがいいというだけです。
そして、キングの安全を確保する具体的な方法は「キャスリング」です。
キャスリングとは、キングとルークを1手で同時に動かすことを意味します。
この局面から…
こうするのがキャスリング!
キャスリングは、チェスの特殊なルールの1つです。
そのため、キャスリングについて詳しく知らない人も多いでしょう。
キャスリングするためには、以下の条件を満たしている必要があります。
- キングとルークを初期位置から一度も動かしていないこと。
- キングがチェックされていないこと。
- キングとルークの間に、他の駒が存在していないこと。
- キングがキャスリングする先の2マスが、敵の駒の攻撃範囲に含まれていないこと。



最初はキャスリングの条件を覚えることに苦戦するかもしれません。しかし、オンラインでチェスをするときは、キングの駒をタップまたはクリックすればキャスリングできるかどうか分かります。そのため、最初から完璧に条件を覚える必要はないでしょう。
キングをタップしたときに、
「1マス飛ばして動かせるとき」はキャスリング可能です!
この局面の場合、g1をタップまたはクリックすれば、キャスリングできます。
詳しく知りたい人は以下の記事をご覧ください。


- 中盤戦や終盤戦の前にキングの安全を確保すべき。
- キングの安全を確保する具体的な方法は「キャスリング」。
世界チャンピオン「マグヌスカールセン」のオープニングを見てみよう
チェスの歴史はとてつもなく長いですが、歴代最強といわれる世界チャンピオンが「マグヌスカールセン」という男です。
そこで、カールセンのオープニングを見てみましょう。
以下は、2022年のオンライン大会でカールセンがプレイした試合です。
白はカールセン、黒がベトナムの最強棋士「レ・クアン・リエム」です。
1手目(e4 e5)
まず、1手目はお互いにeポーンを指し合っています。



これはオープンゲームと呼ばれ、チェスの1手目で非常によく見かける一般的な手です。
2手目(Nf3 Nc6)
次に、お互いがナイトを中央に展開しています。
白のカールセンがナイトをf3に指して、e5のポーンを攻撃しています。
その手に対して、黒のリエムがナイトを展開しながらe5のポーンを守っています。



このように、後手になる黒のプレイヤーは白に攻撃された駒を守りながら駒を展開することが多いです。
3手目(Bb5 a6)
3手目にカールセンは、ビショップをb5に展開します。
これは「ルイロペス」と呼ばれるオープニングで、昔から非常に人気のあるオープニングの1つです。
b5にビショップを展開することで、黒のc6にいるナイトを攻撃しています。
これによって、黒のプレイヤーがd2のポーンをd3やd4に突くと、「ピン」になり、c6のナイトは動けなくなります。
ポーンをd3に動かすと…
黒はナイトを動かせなくなる。
(ナイトを動かすと白のビショップにキングが攻撃されるため。)
黒のリエムはピンされることを嫌い、a6にポーンを突きビショップを攻撃します。
4手目(Ba4 Nf6)
黒のポーンa6に対して、白がビショップを動かさないと、そのままタダ取りされてしまいます。
ビショップはポーンよりも価値の高い駒です。
白のカールセンは、そのままビショップを取られるわけにはいきません。
そこで白のカールセンは、ビショップをa4に動かします。
これでa6のポーンからビショップは攻撃されません。
これまで受け身だった黒は、ここでようやく自分から攻める手を指せます。
黒のリエムが指した手は、ナイトをf6に動かして駒を中央に展開しつつ、白のe4を攻撃する1手です。
これは敵の駒を攻撃しながら、自分の駒を展開できる効率の良い1手だといえます。
チェスでは、効率の良い手を指すほど自分にとって有利な展開を作ることができます。
5手目(O-O Nxe4)
f6のナイトによって、e4にいる白のポーンは攻撃されています。
ここで白のプレイヤーは、ポーンをd3に指してe4のポーンを守ることができます。
しかし、白のカールセンはポーンをd3に指さず、キャスリングを選択します。
これを見た黒のリエムは、誰にも守られていないe4のポーンをf6のナイトで取りにいきます。



これによって、白のカールセンはポーンを一方的に取られてしまいます。
なぜポーンをd3に指さず、キャスリングを選択したか分かりますか?
その答えが次の手です。
キャスリングでキングの安全を確保することは序盤戦において重要です。しかし、ポーンを理由もなく捨ててまでキャスリングを優先することは基本ありません。つまり、カールセンがポーンを捨てたことには理由があります。
6手目(Re1 Nc5)
白のカールセンは、6手目にルークをe1に指します。
この手によって、e4にいる黒のナイトを攻撃しています。
さらに、ナイトの後ろにあるe5のポーンは誰にも守られていない駒のため、ナイトを動かすとルークに攻撃されます。
白のカールセンがd3と指さずに、キャスリングを選択した理由はこれです。
つまりは、一度ポーンを一方的に取られたとしても、後から取り返すことができることを知っていたのです。
ルークe1に対して、黒のリエムはNc5と指します。
これはナイトをルークから逃がしつつ、a4にいるビショップを攻撃する手です。
黒がNc5ではなくd4を選択していたら
頭の回転が早い方は、「ナイトを動かしたら後ろのポーンが取られる」と聞いて、ナイトを守る手はないのかと考えるかもしれません。
例えば、黒はd4と指すことで、ポーンでナイトを守ることができます。
しかし、次のような手順で結局はe5のポーンを取られることになります。
さらに、白はe5のポーンを取ったナイトをもう一度動かすと、ルークの射線が開き、黒のキングに攻撃できます。(これをディスカバードアタックという。)
この後、黒はビショップをe6に展開すれば、ディスカバードアタックを防ぐことは可能です。
ただ、これに対して白はc6のポーンをナイトでタダ取りできます。
つまり、この手順どおりに指していくと、白が優勢になるため、黒のリエムはNc5と指したのです。
7手目(Bxc6 dxc6)
7手目に白のカールセンは、ビショップでc6のナイトを取ります。
c6のナイトを取ることで、e5のポーンは誰にも守られていない駒になります。
ナイトをタダ取りされるわけにはいかないので、黒のリエムはd2のポーンでビショップを取る1手です。
これによってe5のポーンは、誰にも守られていない駒になりました。
8手目(Nxe5 Be7)



この試合の解説は、この8手目までにします。
(これ以上は長くなるので序盤のオープニングだけ解説します。)
白のカールセンは、誰にも守られていないe5のポーンをここで取ります。
さて、ここではナイトとルークのどちらの駒でもe5のポーンを取ることができますね。



あなたならナイトとルーク、どちらの駒でポーンを取りますか?
「クイーンとルークは序盤に展開するな」というオープニングの原則が存在する、とお伝えしたことを覚えていますか?
敵の視点に立つと、「クイーンやルークを攻撃しながら自分の駒を展開できるから」です。
例えば、ルークでe5のポーンを取ってみましょう。
そうすると、黒のキングにチェックをかけてプレッシャーを与えることはできます。
それに対して、黒がNe6と指してチェックを防いだとします。
この局面になったとき、白には何ができるでしょうか。
b1のナイトやc1のビショップを展開していないため、攻めに活用できる駒が全然ありません。
ここで白のプレイヤーが駒を展開するために、d4にポーンを突いたとします。
白がもたもたと駒の展開を準備している間に、黒はビショップをd6に動かして、e5のルークを攻撃できます。
ルークはビショップよりも価値の高い駒です。
基本的にルークとビショップを交換すると、ルークを失った側が不利になります。
そのため、白はe1にルークを戻すことになるでしょう。
このように、駒を十分に展開できていないタイミングで、ルークを中央に展開しても意味がない展開が多いのです。
狙いがあって、ルークを序盤から動かすのであれば問題ありませんが、なんとなくでルークを中央に展開すると、相手に利用されてしまいます。
長くなりましたが、このことを当然知っている白のカールセンはルークでポーンを取らず、ナイトでe5のポーンを取りました。
それに対して、黒のリエムはビショップをe7に展開し、キャスリングの準備を進めます。
ちなみに黒のリエムも10手目にキャスリングし、キングの安全を確保する展開となります。
まとめると…
ここまで読んだ方は、以下の重要なポイントを思い出してみてください。
- 中央(センター)を支配する
- 駒を展開する
- 1つの駒を何度も動かさない
- キングの安全を確保する
白のカールセンはもちろん、黒のリエムも序盤ではこれらの4つのポイントをしっかりと守っていると感じませんか?
カールセンやリエムのように、チェスの上級者であれば、これらのポイントを守らずに指すことがあります。
しかし、それはチェス上級者できちんとした狙いがあるからこそです。
チェス初心者で狙いがない人がこれらのポイントを守らない場合は、基本的に上手くいくことがありません。
あなたがチェスの序盤を上手く指したい場合には、これら4つのポイントを意識してみてください!



ここまで長々と書きましたが、チェス初心者に最も必要なことは「チェスを楽しむこと」です。
これら4つのポイントは確かに重要ですが、ポイントを意識するあまりチェスを楽しくプレイできなくなったら本末転倒です。
自分のペースで、チェスを楽しくプレイしながらも、ポイントをしっかりと押さえて上達していきましょう!
チェスにおけるオープニングのポイントまとめ
最後にチェスにおけるオープニングのポイントを一覧にします。
- チェスの序盤戦は中央を支配するのが重要。
- 中央を支配するには、駒を中央に寄せる必要がある。
- 中央に駒を配置できると、中盤戦や終盤戦で駒を活躍させやすい。
- 序盤では、駒を展開(活躍できるマスに動かすこと)が重要。
- 駒を展開するときは、盤面の端よりも中央が好ましい。
- 最も強い駒「クイーン」であっても、1つだけでは敵陣を攻め落とせない。
- 1つの駒を何度も動かさずに、複数の駒を展開することが重要。
- クイーンとルークは序盤で展開するべきではない。
- 中盤戦や終盤戦の前にキングの安全を確保すべき。
- キングの安全を確保する具体的な方法は「キャスリング」。
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